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Mさんのはなし
その会社は数年前、大手企業に吸収され、ウチとの取引はほとんどなくなってしまった。(全国で中小・零細企業はこういう目にあっているのだ!)僕はそんな目にあって、そうとう面白くなかったので辞めようとしたが、ある事情からそのまま残ることになり、現在に至っているわけだ。
ここにMさんという人がいる。僕に残るよう説得したのは彼。歳は59歳。この人「ザ・使用人」といえるお方で、買収される前の会社では社長の右腕(ちなみにその前の会社でも社長の右腕だったそうだ)。今は役職はないし、決定権もないけど、それなりに重要な位置にいる。
プロフェッショナルサラリーマンである彼は、ことあるごとに「代表にサラリーマンの気持ちなんか分からない。」といい、僕が「いやいやMさん、僕はいまここで十分に使われているじゃないですか?」と返し、二人で「カ・カ・カw」と笑うのが定番のやりとり。
ま、道は違えど分かり合っている。と僕は思っているのだが、Mさんの気持ちはいかに?
さて。
このところ、その会社の、僕が居る部門の人事異動ですったもんだしていた。僕には全く関わる義理はないが、Mさんからいろいろ状況を訊かれるので、出来る限り助言した。で、いよいよ本決まりとなり、それを聞いた僕が「え?だってここにはそんなに人いらないって言ったじゃないですか?」というと、Mさんは「そうかも知れないけど、ま、上が決めたことだからいいじゃないの。」と。
それを聞いた瞬間、「あ、そういうものなんだ。」と変に関心してしまった。そういう風に考えるのかと。
「あ、あ、まあ、そういわれればそうですね。俺が経営しているワケじゃないしね。」
「そうそう。そういうもんだよ。上がそう決めたんだからそれでいいじゃん。そういう判断だから従えば?」
「ええ、従いますよ。そっか、そっか。別に俺は、ここでは金もらえればいいですから。」
「でしょ?そう考えな。だけど自分、金、金いってるけど、やっぱり健康が一番だよ。」
「なに急に健康とか言ってるんですかw」
「あのね。この歳になると分かるけど、健康が一番。なにしろ健康が大事。」
「そうですね。健康かあ。そういえばMさんタバコ止めた?」
「自分は?」
「まだ止めてない。」
「俺も。」
「カ・カ・カw」
どちらが良い悪いではなく。まあ、そういう話。
ちなみにMさんがリタイヤしたら、一緒にお遍路さんをする約束をしている。
その時までお互い健康でありますように。
〔text.The Gag Council〕
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歌舞伎町ボーイズ
歌舞伎町名物が猛威をふるう前。モザイクAVが全盛だったあの頃。斉木しげるみたいな男優がいたのを覚えている。名前は知らない。
彼は擬似ファック専門の男優で、濃い目のモザイク越しでも、ふにゃりながらの擬似射精だということを分からせてくれる稀有な存在だった。
TSUTAYAで借りて家に戻る。借りてくるのはお気に入りの女優なワケだから、わくわくでビデオデッキに手をかける。だけど、彼が出てくると一気に心が萎えて…。
今度こそは、今度こそはちゃんとやるだろう と期待を込めて早送りするも、彼はもれなく毎回擬似。もう、怒りをとおりこし、「貴方はそれでいいんですか?本当にそんな生き方でいいんですか?」から、「どうしてこうなったんですか?擬似ファック要員になるまでの経緯が知りたいし、その境地に辿りつくまで、貴方になにがあったのですか?」と、一度お会いして訊いてみたくなってきた。
それから何年も経った。いまはどこかの田舎町で別の仕事をしているのだろうか?それともまだAV業界に残っている?だとしたら都会の片隅で貴方はなにをおもっているの?
歌舞伎町名物で偽ザーメン(通称:偽ザー)の中出しモノを観るたびに、そんなことを考える。
現在、歌舞伎町名物で偽ザーファックをするのはそれ専門ではなく、他作品ではガッツリ中出しを決めている連中。だから、偽ザー要求をする女優に対し、大なり小なり「んだよ!テメっ!」と思っているはず。彼の境地に至っているヤツなんて一人も居ない。
そう思うと、彼のような擬似職人がいたオモテのAV界って、成熟した世界だったのではないかなと。いや、成熟という言い方はおかしいか。誰もやりたがる人がいないから、俺がやりますみたいな。カムイ伝とまでは言わないが、不景気だけど産廃業者は相変わらず儲かってますのような。
歌舞伎町名物の作品レベルの低さを嘆く人もいるが、この世界はいろいろな意味で「途中」ということで、あたたかく見守っていただきたいと願う。
彼のような存在が現れたときに、歌舞伎町名物は「ようやく」という感じになる。
ま、モザイクレスなので、最初から最後までふにゃふにゃな男優なんて、登場するわけはないのだけれど。
〔text.The Gag Council〕
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